2019.8.29 OTHER 計良 宏文 【計良展情報 Part6】トークライブ計良宏文×坂部三樹郎

タブーや既成概念を打ち破るクリエイションの舞台裏

埼玉県立近代美術館で9月1日まで開催されている資生堂のトップヘアメイクアップアーティスト・計良宏文の作品展「May I Start? 計良宏文の越境するヘアメイク」。この展示に伴い、8月18日には、計良と「MIKIO SAKABE」デザイナーの坂部三樹郎さんによる「展示作品と、クリエイションの楽屋トーク」と題したスペシャルトークライブが行われました。二人が語ったクリエイションの過程、そしてその深層にある考え方とは。


アイドルを「フィギュア」のようにする

坂部三樹郎氏(写真左)×計良宏文(写真右)

計良:坂部さんと最初にお会いして「何か一緒にやりたいね」とお話ししてから1年後、坂部さんからオファーされたのが、「MIKIO SAKABE」2011-12AWファッションショーでのヘアメイクでした。「でんぱ組.incのメンバーを本物のフィギュアっぽく見せるためにはどうしたらいいか」というお話でしたね。

坂部:その頃はまだ、ファッションとアイドルにあまり関係性がなく、でんぱ組.incもデビュー前で無名、メンバーも今とは違いました。アイドルやアニソン歌手を目指す女の子たちがライブをするバー「秋葉原ディアステージ」から生まれた彼女たちのヘアメイクのルールは、アニメの影響もあってまったく違いましたね。例えば、アニメのキャラクターは耳の横の毛や前髪はほぼ動かないからそれに近づけたい、というように。

でんぱ組.inc(2011)

計良:飛び出している「アホ毛」も大切と言われましたね。でも、普通にそれらを再現したカラフルなウィッグを被せただけでは、「フィギュア」ではなくただのコスプレになってしまいます。しかもでんぱ組.incは激しく踊りながら歌うので、軽さや丈夫さも求められた。そこでウィッグは、発泡スチロールを削ってそこに人毛を貼り、いくつかのパーツに分けて作り、それをマジックテープで合体させて装着するようにしました。

坂部:足元も「フィギュア」のようにするには、膝下の長さが重要でした。そこで、ヒールが45cmくらいある筒状の、足がバレリーナのようにまっすぐになっていないと入らない「アトムブーツ」のような靴で膝下を極端に伸ばしました。

計良:ところが、制作中に東日本大震災が起こって……。

坂部:通常、ファッションショーは3月がシーズンですが、4月にずらすことになりました。でも、世の中はまだファッションショーをやる雰囲気ではなかった。「なぜ今、ファッションショーをやる意味があるのか」と考えたとき、エンタテインメント性があることをやったほうがいいと思いました。そこで、節電の時期でもあったためLEDを使用し、「TSUTAYA TOKYO ROPPONGI」をゲリラ的にショー会場にしました。

でんぱ組.inc(2011)

計良:エスカレーターからモデルが降りてきてウォーキングをし、でんぱ組.incがライブをして。

坂部:オタ芸をやってくれる人たちにも来てもらいました。結果、店の外にも人が溢れてしまって、警察が来て(笑)。

計良:ショーを見た人たちは口々に、「でんぱ組に元気をもらった」と言っていました。今回の展覧会では、このショーのウィッグと、今年6月にリリースされたでんぱ組.incのシングル「いのちのよろこび」のビジュアル用に私が作ったウィッグ、坂部さんの奥さんで「Jenny Fax」デザイナーのシュエ・ジェンファンさんによる同ビジュアル用の衣装を展示しています。


洋服にプリントされた柄が溶け出す⁉︎

MIKIO SAKABE 2016年春夏コレクション

計良:その後も、2012-13AW、2013-14AW、2014-15AW、2015-16AWと坂部さんのショーでヘアメイクを担当しましたが、まともにヘアメイクしてくださいというオファーはありませんでした(笑)。2016SSのときも、かなり攻めていて。

坂部:このときは、髪の毛や洋服、モデルの体にペンキをつけているようにしてもらいましたね。絶対に溶けないはずの洋服にプリントされた花柄が、モデルがランウェイを歩いている途中にまるで溶け出したかのようにして、モデルが手に持っている鞄も、溶け出して手と一体化するようにして。

計良:髪は付け毛にペンキを塗ったものを用意して、それを髪の毛に混ぜて貼りました。体に付けたペンキのようなものは、「3Dペースト」というシリコンペーストです。特殊メイクの造形を作るときに使われるんですが、それに色を混ぜて、ペンキっぽい質感にしました。

坂部:モデルがショーに出る直前に、体や手に計良さんが塗ってくれて、まさに今、溶け出したかのように表現できました。とても好評でしたよ。


コレクションにおけるタブーに挑戦

計良:2017SSのショーは、「mikio sakabe」の10周年で、再開発のため閉園となる直前の渋谷・宮下公園で行われました。

坂部:このときのオファーはかなりまともな内容だったと思います(笑)。

計良:60、70、80、90年代を象徴するヘアメイクをしてほしいということでした。

坂部:ファッションのコレクションにおいて、年代を混ぜることは結構タブーだったんです。その時代にはそれぞれのシェイプがあるので、それを混ぜようとすると形が違いすぎてスタイリングができない、カッコよくなりづらいという問題がありました。でも、それをどう乗り越えるかチャレンジしてみたかったんです。

MIKIO SAKABE 2017年春夏コレクション

MIKIO SAKABE 2017年春夏コレクション

計良:各年代のヘアメイクを再現することになったうえに、モデル数も多かった。そこで、資生堂が誇るトップクラスのヘアメイクアップアーティストが集まってくれました。私の大先輩で、実際に当時こうしたメイクをファッションショーで手掛けた経験もあり、「マドンナみたいに」と言ったら、「こんな感じでしょ?」とすぐできてしまうお姉様方です。今はなかなか手に入らない当時の化粧品も持っていて、提供してくれました。90年代、「メゾン・マルタン・マルジェラ」のショーに登場したベージュの付けまつ毛を再現する際には、実際に当時マルジェラのバックステージに入っていた先輩が作り方を教えてくれました。資生堂のアーティストの層の厚さを改めて感じ、楽しめる仕事でした。


一筋縄ではいかない「日本」を表現

坂部三樹郎氏によるデッサン

計良:2018SSのショーもやりがいを感じて印象に残っていて、今回も展示しています。ハート型と星型の立体が服から飛び出し絡み合った、相当インパクトのある衣装でした。

坂部:もともとは、着物だけでファッションショーをやるつもりでした。着物は現代的にするとダサくなって、これまで成功した例は多くありません。やはり伝統的なものが美しいんです。それをどうにかしたかったんですが、やはりダサくなって怖くなり、やめました。それで、日本のかわいいカルチャーとユニホーム的なもの、そして伝統的なものを混ぜることにしました。そういう一筋縄で行かない方向が日本っぽいから。過去から流れ出るカルチャーと現代のサブカルチャーみたいなものを、どうしたら地続きにさせられるかというのを表現しました。

計良:それに伴ってヘアメイクの資料は、最初にいただいた日本髪の古い写真から、坂部さんによる、かなりリアルでカラフルな和風の髪型を崩したデッサンに変わりました。それでイメージが明確になった。メイクはその当時、目の下に赤いチークを入れるのが流行っていたので、それを逆手に取って、もっと赤くなった部分が多い、日焼けをしすぎてヒリヒリしていそうな感じにしました。

MIKIO SAKABE 2018年春夏コレクション

MIKIO SAKABE 2018年春夏コレクション


人の認知の仕方と顔の関係

計良:今回、この展覧会をするに当たって坂部さんにご協力をお願いして、新たにインスタレーションを作りました。最初の打ち合わせで坂部さんが面白い話をしてくれましたね。

坂部:人は一瞬、相手の顔を見ただけで、「かわいい」とか「かっこいい」、もしくは「若い」「知っている」などと思います。そんなふうに瞬時に人の顔を判断している。でも、具体的に目や鼻、口の形を覚えているわけではありません。だから人の認知の仕方と顔の関係がすごく気になっているという話をしたんです。人間って不思議だと。

計良:そういう話をしていたら、坂部さんに「計良さんは、人の顔の造形を瞬間的に判断できるんですか?」と聞かれました。「それはわからないけれど、顔の造作を、どういうふうにしたらどう見えるかアドバイスすることはできるし、それを変えることは可能ですよ」と言ったら、坂部さんから「何パターンくらいできる?」と。それで「何パターンでも」と言ったんですよね。そこから「FACE」というマルチチャンネル・ヴィデオインスタレーション作品ができました。1人のモデルさんに39パターンのヘアメイクをして、ほとんど動かない動画として39枚のディスプレイに映しています。


美を意識し、審美眼を磨く

計良:ここからは少し、会場のみなさんから質問をいただきたいと思います。

――企業で働くアーティストは、どのようなポジションにありますか?

計良:資生堂もいまや歴史の古い会社となってある意味、保守的な部分もあります。でも西洋のものをいち早く日本に取り入れてきたのが資生堂であり、パリコレに行った初めての日本人も資生堂のヘアメイクアップアーティストでした。そうやって時代を開拓し、日本の生活文化を変えてきました。資生堂自体がもともとそういう精神を持った会社なので、私も刺激的なことを世の中に見せていく必要があると思っています。企業内アーティストとしては、表現の最先端にいながら、その経験を広く一般の化粧品や美容技術に落とし込んでいくという役割があると思っています。

――お二人が、仕事をする相手を選ぶ基準は何ですか?

坂部:性格が合うかどうかはもちろんありますが、あまり同じ人と仕事を続けることはありません。計良さんとは珍しく長く一緒に仕事をしていますが、これまで言語学者や物理学者などいろいろな人と仕事をしてきました。そういう中で発見があるので、常に自分が知らないところ、ゴールが見えないゾーンに行きたいと思っています。

計良:そこは私も似ているところがあります。この人と組んだら、自分の想像していないところに行けるんじゃないか、面白いことが生まれるんじゃないか、そういう意外性がある人と組んでみたいと思います。

――今回、美術館で初めてヘアメイクアップアーティストの展覧会が行われました。計良さんの美の基準はどこにありますか?

計良:私の先輩は、「美意識と無意識は違う」と言っていました。「無意識ではいけない、美を意識することが美しさに繋がる」ということです。人それぞれ美意識があると思いますが、共通して美しいと思えるものもあります。そこを意識し、表現できるようにトレーニングをしていきます。また、尊敬するヘアメイクアップアーティストのマサ大竹さんは、「審美眼を磨きなさい」と言いました。審美眼とは、「美を見極める力」。いいものをたくさん見て、感じて、本物を知ることで、身についていく。それだけでは守りに入ってしまいますが、そこに新しいエッセンス、みなさんが見て面白いな、斬新だなと思う要素が加わって価値が変わっていくと思います。ただ美しいだけじゃないものを、作っていきたいなと思っています。


個展「May I Start? 計良宏文の越境するヘアメイク」概要はこちらから

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